壱番屋の被災地支援と自社の震災対応 (2011/05/05)

具体的な実施店舗は宮城県・福島県・岩手県の全店(宮城県15店舗、福島県7店舗、岩手県3店舗の計25店舗)。この店舗にて、ボランティア活動者であることを示す「ボランティア活動保険加入者カード」「ボランティア活動者ステッカー」などを提示すれば、店舗のメニューから1000円以内のメニューなら何でも無料で食べることができる。
ボランティア活動者へのカレーの無償提供は4月6日から2店舗で先行して開始し、4月16日から対象店舗で一斉スタートした。
きっかけは自社のボランティア経験だった。被災地では、被災者だけでなくボランティア活動者も厳しい環境となる。「ボランティアの基本は衣・食・住を自前で用意することだが、震災の影響の大きい地域では、ボランティア活動者自身の食事も不足してしまう。当社のボランティアチームからも、空腹で苦労するメンバーが出た」と同社常務取締役・経営企画室長の阪口裕司氏は話す。
同社は震災間もない3月18日から被災地での炊き出しを実施している。以降、1日あたり1000食以上のカレーを提供してきた。本社スタッフを中心に7~8人でチームを組み、1週間交代で毎日各地の避難所に炊き出しを実施。被災者から「温かい料理をありがとう」と喜ばれたが、自分たちの食事環境に苦労した。
こうした実体験を経て、「ボランティア活動者を支援することも必要だと気付いた」(同氏)
4月16日から一斉スタート
全体の25%が無償提供に
そこで、被災地の宮城・福島・岩手の全店でスタートする4月16日より前の4月6日から、宮城県名取市と同県仙台市太白区にある2店舗でボランティア活動者にカレーの無償提供を実施。1日に50~60食が利用された。通常時、同社の全国の平均販売数は、1店舗あたり200食。50食がボランティア活動者に提供されるとすると、全体の25%が無償提供ということになる。
かなり大きな比率となるが、被災地とボランティア活動者のため、被災地周辺の全店での実施を決めた。
また、このボランティア活動者のためのカレー無償提供は、「FCに対する支援にもなる」と阪口氏は話す。「ボランティア活動者に無償提供するカレーの代金は本部が負担するため、FCにとっては店舗の売上となる」(同氏)ためだ。結果的に、被災地で通常時より客足が減るところ、ボランティア活動者を呼び込むことでFC店舗にとっては経営支援となる。
同社では、今回のボランティア活動者へのカレーの無償提供の終了時を定めていない。被災地の復興状況を見る必要があり、まだいつ終わりにするか決めるタイミングではないというのが理由だ。
「ボランティア活動者に対する支援を行っていることはまだまだ知られていない。今後、認知が広がればもっと利用者が増えるだろう」と阪口氏は熱く語った。
震災1週間後から毎日炊き出し
ボランティア活動者に対する支援をスタートする以前から、同社では被災地に対する支援活動を続けている。
まず、義援金として、あしなが育英会を通して震災遺児に対し1億円を寄付した。あわせて店舗での募金活動も実施中だ。
義援金のほか、レトルトカレー6万6000食を提供。また「低アレルギーカレー」6372食をNPO法人アレルギー支援ネットワークを通じて、アレルギーを持っている被災者へ提供した。
また、震災から1週間後の3月18日にはカレーの炊き出しを実施。以降毎日、昼と夜の2回にわたり、震災地の避難所に出向いて炊き出しを行っている。
早い段階から炊き出しを実施できたのは、被災地に同社の直営店の名取店があり、ここの被害が小さかったためだ。「名取店を基地として使うことで被災地で活動ができると考えた」と阪口氏。炊き出しの計画自体はもっと早くから上がっていたが、「現地の状況もあるため、迷惑にならない時点を見て、炊き出し実施することにした」という。
同社の炊き出しは、1日平均で1000食を超える。この量の炊き出しを被災地各地の避難所で行うため、食材の運び方・調理法にも工夫した。「調理したカレーだと、運ぶだけで大変になる。そこでごはんだけ炊くことにして、ルーはレトルトカレーを温めてその場でかけてもらうようにした」(同氏)のだ。こうすることで機動性が高くなり、各地の避難所へ食事を運ぶことが容易になった。
同社の炊き出しは、現時点では5月1日までをめどにスケジュールを調整している。状況を見てどうやって続けるかを検討するほか、今後はボランティア活動者へのカレーの無償提供という形で被災地支援を継続していく予定だ。
自社も被災
その時どう動いたか
被災地への支援を続ける同社だが、同社自身も、震災により被害を受けている。
まず、震災直後の3月12日時点で、93店舗が休業。その後数日で営業店舗数は30店舗近くまで回復したが、栃木にあるメーン工場の被災が影響し、カレーソースの提供が十分にできなくなったため、3月20日には関東地区の直営店65店舗を休業することとなった。
現在は、栃木工場の生産が復旧し、ライフラインや店舗への配送が復旧したため、1店舗を除いて営業が再開している。
また、東京電力管内の店舗では、3月中の計画停電への対応もあった。店舗でガスを使うため、換気扇を回す必要があり、電気は絶対に必要。そこで停電中に合わせ、テイクアウトの弁当を多めに準備するなど工夫した店舗もあったという。
栃木工場の被災で危機直面
カレーソースのメニュー絞って対応
休業店舗や計画停電のほか、同社にとって、特に影響が出たのは栃木工場の被災だった。震災により、同工場が1週間停止。この影響で、店舗の休業のほか、全国の店舗で「ビーフカレー」「ハッシュドビーフ」の販売を中止することとなったのだ。「ビーフカレー」「ハッシュドビーフ」の提供が再開したのは、4月末になってからである。
同社は、栃木工場と佐賀工場でカレーソースを生産しているが、栃木工場がメーン。栃木を8割とすると佐賀は2割にすぎない。このため、栃木工場の停止は本来、特定メニューの販売停止ではなく、全店でカレーソースそのものが不足する懸念に直結した。
この影響に対し、阪口氏によれば同社では「関東エリアを中心にしばらく店舗を休業することも考えた」という。しかし、「店舗営業のいち早い再開と、FCを守ることの2点が当社の考え方の軸」(同氏)であるため、長く休業することは避ける必要があった。
そこで同社が取った対策が、「ビーフカレー」「ハッシュドビーフ」のカレーソースの販売停止だった。それはつまり、工場での生産を「人気があるポークソースに絞り、ビーフソースを止める」ことだった。
「ポークソースは全体の8割を占める当社の主力商品。これに絞り、全体としての供給を止めないことが重要だった」と阪口氏。
フルメニューで店舗運営を再開すれば、カレーソースの供給が足りなくなる。ならば、カレーソースのうち、同社が強みとする重要なソースに絞り、工場の生産をそこに集中することで問題を解決した格好だ。
大企業を中心に策定が進む事業継続計画(BCP※)では、被災時に人や設備がダメージを受けて生産力が落ちても、企業として重要な事業が継続できるよう、あらかじめ自社の事業について経営面や社会的な影響を考えて優先順位をつけておくことや、代替生産の手法などを考えておくことを求めている。壱番屋では、今回の被災の対応の中で、こうした作業を行ったことになる。
今回の経験を踏まえ、同社では生産工場をもう1カ所増やすか、あるいは流通在庫の持ち方を変えるか、情報を整理して考えたいとしている。
(酒井真一)
※事業継続計画(BCP)=Business Continuity Plan
企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画。
